国沢氏は2ch相手に裁判を起こして勝てるか 
● 確執

2chと国沢氏の最初の確執は、2000年の秋にまで遡る。 2chで国沢氏を話題とするスレッドが立ったのは2000年9月のことである。そして、そこには、国沢氏を苦々しく思う人や、国沢氏の掲示板を追い出された人、MagX BBSで国沢氏と悶着を起こした人、ただの冷やかし、など様々な立場の人が現れ、入り乱れて国沢氏を話題にしていた。 このスレッドで国沢氏のページを知り、kunisawa.netの掲示板へ書きこむ人もいたのだ。

そんな折、国沢氏は自身がコラムを持っている自動車雑誌「ベストカー」において、「自分について酷いことが書かれているので、名誉毀損で2chを管轄の石神井署に訴えた」と書いたのである。

Great Spangled Book Reviewの「く」をご覧頂きたい。一部引用しておく。
「来たるべきIT時代はいろいろと難しい?」

国沢光宏: 「来たるべきIT時代はいろいろと難しい?」
クルマの達人になる。Vol.86 『ベストカー』,三進社 2000.12.10.

書評

昨年秋以降自動車評論家国沢光宏氏の掲示板が時々荒らされている.また,例の巨大匿名掲示板2chの自動車板にも国沢氏に関するスレッドができて, こちらでも悪口大会になっている.確かに掲示板を荒らすのはよくないことだし,2chでは「そりゃたしかに名誉毀損だよ」ってな書き込みもけっこうある.が, それに対し国沢氏が『ベストカー』誌の連載に書いた記事もまた面白いので紹介したい.

国沢氏によると2chの評判はすこぶる悪く,「特定の政治団体を誹謗中傷したり、宗教の誹謗中傷したり、まぁヒドイもん」だそうである.(中略)
ただ,自動車評論家なのに政治団体や宗教がケナされて腹が立つというのが面白い人だと思った.それがどの政党でどの宗教かということはどーでもいいので詮索しないけど.

もっとこりゃヘンだと思ったのだが,「雑誌ならとっくに右翼の街宣車が乗り込むようなことまで平気で書いてある」ってのはどうなんだ? 「右翼の街宣車が 乗り込む」ことを書かないことが雑誌として正しいことなんだろうか? なんか,そんなのが来てもなんでも,確たる真実はあくまで書くのが雑誌,というか, ジャーナリズムってものではないかと思うのだが.

(中略)

あと気になるのは,国沢氏本人に関する中傷記事について.それを名誉毀損として警察に通報したり掲示板の管理者に削除依頼したりするのはいいと思うけど,書かれていることが「嘘だ」って否定しておかなくていいのだろうか.私も全部が本当とは思わないけど,信じて欲しくないことはこの記事でも「ウソです」ときっぱり言っておく方が賢明だなと思う.ネットや出版にはそういう情報もまた広める力もあるのだから.

(略)
これ以前にも、国沢氏は判明しているだけでも、Mag-X掲示板での自分の批判者に対して掲示板で、また自身に批判メイルを送ってきた人に対して、WEBの日記で自身の記事の批判を書いていた方に対してもメイルで、「訴えるぞ」と警告を発している。また、kunisawa.netの掲示板でしつこく食い下がった人達(ある島事件および筆者の小失敗事件に関して)に対し「訴える用意がある」と公言している。 しかし、これらのいずれについても、彼は「何が名誉毀損にあたるのか」という点について具体的な項目をまったく明示してこなかったのだ。

そこで、ここでは、国沢氏に換わって「2ch等での一連の書きこみ、またkunisawa.netの掲示板などの書きこみを考察することによって、
  • プライバシーの侵害とはならない個人情報は何か
  • 名誉毀損とはならない表現、事実の公表はどのようなものか
  • 著作権の侵害とならないように転載・引用をするには
  • 言論の機会を奪うのは権利侵害にあたらないか
などについての具体例を示そうと考える。

この節は「どの程度なら許されるか」を考察するため、いきすぎた表現としての2chでの誹謗・中傷表現をそのまま掲載している箇所がある。しかし筆者には国沢氏を誹謗・中傷する意図はないということを強調しておきたい。
加えて例を多用しているが、
それらの例についての多くは根拠無き作り話であり、それらについては実際の国沢氏の言動その他とは一切関係ないということもご認識願いたい。これらの例の場合は、<例>としている(もし実際の出来事であったとしても、それはただの偶然である)
また、実際に裁判となった場合、筆者がここで挙げた考察の通りになるという保証もまったくできないことは、言うまでもない。

以上のことをご理解いただけた方のみ、以下の文章を読んでいただきたい。



● 名誉毀損とは何か

さて、まずは「名誉毀損」なる罪状についてである。この罪は、刑法230条にて定められている。刑法の原文、および判例を掲載する。
(一部を見やすくしてある)
◆刑法34章

(名誉毀損)

第230条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
『名誉とは、人の社会的評価又は価値を指称する』
『本条にいう公然事実を摘示するとは、他人の名誉を毀損すべき事実を、不特定多数の人に認識させる状態に置くことをいう』
『不特定多数の見聞し得る状況で事実を摘示すれば、たとえその当時見聞者がいなかったとしても、公然事実を摘示したものということを妨げない』
『多人数であっても、その数又は集合の性質から見て、 よく秘密が保たれ絶対に伝播のおそれがないような場合には、公然ということはできない』
『名誉毀損における事実は、必ずしも非公知のものであることを要せず、 公知の事実であっても、これを摘示表白した場合は同罪を構成する』 
(筆者注:頭髪の薄い方に向かって「ハゲ」という場合など、と思われる)

(公共の利害に同する場合の特例)

第230条の2 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、 事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。

3 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの 証明があったときは、これを罰しない。

(侮辱)

第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
『公然の侮辱罪とは、不特定多数の見聞き得べき場所で人の名誉を毀損すべき意見を発表する行為をいうのであって、被害者がその当時その場所にいたかどうかを問わない』
『他人の名誉を毀損する具体的事実を公然告知したのではなく、 単にその社会的地位を軽蔑する自己の抽象的判断を発表したのにすぎない場合には、侮辱罪が成立する』


◆民法

第709条 故意又は過失に因りて他人の権利を侵害したる者は、これによりて生じたる損害を賠償する責に任ず

第710条 他人の身体、自由又は名誉を害したる場合と、財産権を害したる場合とを問わず、前条の規定によりて損害賠償の責に任ずる者は、財産以外の損害に対してもその賠償を為すことを要す

加えて、2002年5月に公表された「プロバイダ責任法 名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」(注:pdfファイル)において、権利侵害かどうかの判断基準が示されている。詳細は上記を読んでいただきたいのだが、そのうちでこの項で必要と思われる箇所をまとめたものが、以下である。
プライバシーについて
  1. 著名人はプライバシーをさらすことによって生活の糧を得ている面があるため、私人よりもプライバシーの保護対象の範囲は狭い
  2. 著名人の、その著名となった分野での事実は基本的に保護対象とならない。それ以外におけるプライバシーは守られるべき。また、著名人となる以前のプライバシーも私人と同様に扱われるべき
  3. ネット上でハンドル、フリーメイルアドレスを使用している人は、プライバシーの観点から本名・メイルアドレスを知られたくないという意思の現れであるので、これらの本名や実アドレス等をさらすことは、権利侵害にあたる可能性が高い
  4. 例えフィクションであっても、一般人が見て事実と受け取られる内容であればプライバシーの侵害となることがある
  5. 著名人の自宅公開はプライバシー侵害の可能性が高い
  6. 氏名、連絡先以外の個人情報(身体的特徴、個人的信用度など)は、著名人の場合、それが社会的に正当な関心事であり、表現方法が適切ならばプライバシーの侵害とはならない場合がある(選挙に立候補した人が前科を暴かれた件について『その人が公職としてふさわしいかどうかの(選挙民の)判断基準となり得るのでプライバシー侵害とはいえない(当然その暴露記事が、判断基準を提示するという目的であるかどうかも考えるべきだが)』とする判例がある
  7. 私人に関しては「ここまでならプライバシーを暴かれてもよい」という例外は存在しない(犯罪に関してはまた別)


名誉毀損について
  1. インターネットでの名誉毀損は「誰でも見ることができる状態に置かれたこと」によって成立し、被害者がそれを見たかどうかは要求しない
  2. 特定の人を指定してはいないけれども(隠語などで)、誰か類推できれば、名誉毀損になる
  3. 書かれた事実が「社会の正当な関心事」であれば名誉毀損とはならない
  4. 公訴前の犯罪行為の事実の公表は「社会の正当な関心事」である
  5. たとえ私人の私生活上の出来事でも、その人の社会的活動と社会に与える影響によっては、その社会活動への批判・評価として事実の公表は「公共の利害に関する事実」とみなされることがある。(ただし、その人が社会に与える影響の少ない分野ではこれにはあたらない)
  6. 事実の公表が公益を図る目的であるかどうかは、記事内容、文脈だけではなく、表現方法、批判の根拠となる参考資料、執筆態度(真摯なものかどうか)や、裏で「私怨を晴らす、私利私欲を追求する」などの個人的動機がないこと、などの表面に現れない事実も考慮すべき
  7. ある事実を基に論評を行う際、それが公共の利害に関わり、公共の目的に適う場合、それが真実ならば、人身攻撃でない限りその論評は名誉毀損とはならない
  8. もし事実の公表の表現が「〜ではないか」などと用いられても、前後の文脈と読者知識を基にして、それが結論であると思われる場合は「事実の公表」とみなす
  9. 人身攻撃かどうかは、執拗かどうか、極端な揶揄・嘲笑・蔑視等の表現はないか、以外にも、評論される人物の立場も考慮しなくてはならない
  10. 掲示板での論争は、「対抗弁論」が容易なので、名誉毀損の成立は限定されるべき(言論による侵害は言論で対抗するのが表現の自由−日本国憲法21条1項)
  11. 名誉毀損を申し立てた人物の反論が十分な効果をあげているとみられる場合は、名誉毀損は成立しない
  12. 名誉毀損を訴えた人物が、名誉毀損発言をした人間に対して相当性を欠く発言をしたことに誘発されて名誉毀損発言をした場合は、その発言が対抗言論である場合は、名誉毀損は成立しない
  13. 自己の意見を強調し、他者を論破するために、必要でもなく、相応しくもない、品性に欠ける言葉を用いて罵れば名誉毀損のみならず侮辱罪となる
  14. 新聞の場合、たとえ興味本位の内容の記事を掲載し、読者もそう認識していたとしても、読者はその新聞すべてが根も葉もない噂話と認識しているわけではなく、いくつかの真実もあると考えるのが通常であるから、その記事によって社会的信用が低下する可能性があるため、名誉毀損が成立し得る
当節では、インターネットにおける名文化されたルールの代表として、このガイドラインに沿って考察を行うこととする。
もしこのガイドラインが「誤り」とするならば、別のもっと信頼できる名文化されたルールを提示願いたい。

●  国沢氏は私人か、著名人か

上記のガイドラインを適用するにあたり、まず問題としなければならないものの1つがこの点であろう。

車にさほど興味もない人から見れば、著名な自動車評論家は徳大寺氏か三本氏くらいである。しかし、自動車の趣味の分野でいえば、彼はいくつもの雑誌に執筆し、WRCの解説やラジオ番組も行っているので、「私人」の範疇に押しこめるのは少々無理がある。

もし仮に裁判となった場合、「自分は私人である」として訴状を作れば、名誉毀損となるしきい値は低くなる。だが、それでは、数ある論争で掲示板の常連が国沢氏を弁護してきた「国沢氏は有名人だから変なのが寄って来るのだ」という意見を真っ向から否定してしまうことになる。

もし国沢氏を「私人」としたとしても、彼は自称「原稿量日本一」の評論家であり、メディアを通して与える影響が大である。したがって、少なくともその記事の与える影響を考えれば、国沢氏は「その発言に少なからぬ影響力を持つ私人」とみなすべきであろう。つまり、著名人に限りなく近い私人とみるのが妥当と考える。
● 名誉毀損やプライバシー侵害が成立するには

次に、どのような場合に権利侵害が発生するのかを考える。 「例え事実であれ公開すれば名誉毀損が成立する可能性がある」のであれば、Internetのみならず、言論の場においては安易に何も言えなくなってしまう。

しかし、名誉毀損が成立するには、いくつかの条件を満たさなければならない。

ネットでの名誉毀損の有名な判例であり、その後の判決の指針ともされる東京ニフティ裁判では、以下の条件を全て満たす必要があるとされた。
  1. 事実の公表など、特定されるある人の名誉を毀損する発言があること
  2. その公表によって、特定される人が実際に被害を受けたこと
  3. その受けた被害と、1.の名誉毀損発言との因果関係が認められること
  4. 名誉毀損が行われた時に、被害者は有効に反論できる術を持っていなかったこと
国沢氏の場合、2chでは名指しで話題にされているので、その中で誹謗にあたる発言などがあれば1.は満たすことになる。
そして2.についてだが、国沢氏に何らかの被害がなくてはいけない。この点については、私人の場合は「風評による精神的苦痛」などが考えられる。しかし国沢氏の場合は著述業であるから、2ちゃんねるでの風評により
「著作物の売れ行きが鈍った」とか、「原稿依頼が減った」という方が分かりやすいし、訴えやすいと思われる。
3.は、2chでの批判がその被害の原因であるということを証明できなくてはならない。 2.では著述業での被害の方が訴えやすいと述べたが、実はこの金額換算において難しくなる。2chで批判されたから金銭的被害を受けたとするならば、2chでの批判開始以前とその直後からの収入の推移などについて調査し説明できなければならない。また、2ch以外にはその原因が考えられないことも証明できればBetterであろう。
4.は、国沢氏がそれらの批判に対し、有効に反論できない立場であったことが証明されなければならない。これについては後で考察する。

つまり、もし国沢氏が2chを訴える場合、まず2と3について
被害額とその因果関係を説明できるようにすることが必要なのである。

さて、現実には国沢氏は2chで批判され始めた2000年秋以降、TV出演をしたり、広告のタイアップに出たりと活躍の場は減ったようには見えない。また執筆誌も減ったふうではない。と考えれば2ちゃんねるでの批判が仕事に影響したという証明は少し難しくなるのではないか。(国沢氏の収入を知ってるわけではないので何とも言えないが)。 また、2ch以外のページや雑誌でも批判されていることから、2chだけに原因を求めることは少々無理がある。2chは確かに1日に何百万アクセスもされる掲示板であるが、国沢氏を話題とするスレッドにアクセスする人はそこまで多くない。
その上、評論活動や取材において不適切な言動も多いと指摘されているため(フォード副社長インタビュー、トヨタ社長への正論等)、その蓄積によるものと2ch側に指摘される可能性もある。

もう少し突っ込むと、この場合、もし仮に実際に仕事が減っていたとして、仕事を減らした人物(例えば編集部など)の見解の証拠なども必要となるであろう。
そうしたら、編集者側としての見解のパターンをいくつか考えれば、どれも国沢氏にとって都合が悪くなってしまうのである。
1: 2ちゃんねるを見て仕事の依頼を止めた
これは国沢氏にとって訴訟に関して*だけ*は望ましい発言の1つであるが、国沢氏は「編集者も2chを見て(嘘ばっかりだと)笑ってますよ」と書いていたので、これを否定されることとなる。加えてこの見解は、実質的に国沢氏への依頼を半永久にしないという表明でもあり、長期的視野にたてば国沢氏にとって望ましくない。
2: 2ちゃんねるを見た読者の意見を反映させて切った
これが名誉毀損の訴訟に関して*だけ*は、国沢氏にとっても編集サイドにとっても一番望ましい発言なのだろうが、国沢氏は以前「雑誌の編集は(匿名の)読者の意見など聞く耳をもたない」とまで主張していたので、この発言も否定されてしまうこととなる。よって、これまた長期的視野にたてば国沢氏にとって望ましくない。
3: 単に雑誌社の都合で切った
編集者としてはこう言いたいと思われるが、これまた国沢氏にとっては都合が悪い。2chの書き込みのために被害を受けたと説明がつかなくなるからである
かように、どれをとっても国沢氏にとって都合が悪くなる。ということを考えれば、「仕事が減って経済的打撃を受けた」というよりも、単に「社会的地位を下げる発言により精神的苦痛を被った」ということにする以外ないような気もしないでもない。
まあどういう被害なのかは国沢氏が決めることであるが・・・。

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