ここまでは、主に「国沢氏を批判する側」としての、批評の域を超えた表現について考察してきた。
しかし、かつては国沢氏の掲示板参加者(発言者も含め)であった方でも、国沢氏に敵対するようになってしまったのは、当ページでもいくつも事例を書いているように、国沢氏および一部の取り巻きの対応に多分に問題があったからである。
そこで、最後の結論を出す前に、もし裁判となった場合に国沢氏が不利となるであろう内容(発言など)についても考察することとする。


● 国沢氏の過激な評論への反論


まず既に述べているように、「Aがした名誉毀損発言が、相手Bの発言に触発されての反論によるものであれば、Aは名誉毀損とはならない」 とあるため、前述のような「さすが素人はすごいね」という侮辱的な意味をこめた発言に対する反論としての言論は、おそらく名誉毀損ではないと思われる。

それにしても、国沢氏はあらゆることに対して、過剰なまでに批判をしている。
「西武鉄道という企業、開かずの踏切を放置するなど沿線の住民のことなど全く考えない企業として有名」とか、「警察は誰にも尊敬されない仕事をして楽しいか」などがそうである。もし仮にこれらの意見に触発されて西武鉄道関係者、警察関係社が多少激烈に国沢氏の認識を正す発言をしたとしても、それは名誉毀損とはならない可能性が高いということになる。ただし、第三者の場合は対抗弁論としては認められがたい可能性があるため、節度が必要であろう。

● 脅迫行為

また、国沢氏は実にまずい行為をしてしまっている。それは、国沢氏があるWEBページの製作者を訴えるとした件(2-5)に関するものである。 これは国沢氏に「脅迫罪」または「強要罪」が成立する可能性が高いのだ。
第222条 《脅迫罪》

1) 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加う可きことを以て人を脅迫したる者は2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処す。

2) 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加う可きことを以て人を脅迫したる者亦同じ。
『人を畏怖させる意思でその人に畏怖心を生ぜしむべき害悪を通告する以上、 脅迫罪は成立する』
『告訴の意思なく又はその意思不確定なるに拘らず告訴を為すべきことを通告するは、脅迫に属する害悪の通知であって、相手方の不法行為と対比して違法性なしとすることはできない』

第223条 《強要罪》

1)生命、身体、自由、名誉若くは財産に対し害を加う可きことを以て脅迫し又は暴行を用い人をして義務なきことを行わしめ又は行う可き権利を妨害したる者は3年以下の懲役に処す。

2)親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加う可きことを以て脅迫し人をして義務なきことを行わしめ又は行う可き権利を妨害したる者亦同じ。

3)前2項の未遂罪は之を罰す。

「刑法222条は脅迫罪を定めている。

「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下 の罰金に処する」とある。

ここにいう
告知する内容としての「害」はそれ自体犯罪を構成するようなものであることを要しないとするのが通説、判例。

即ち「上司に通報する」とか「告訴する」等の告知も相手を畏怖させるためならば脅迫罪になる(前田雅英・刑法各論講義2版(東大出版会1995)90)。

更に脅迫により 「人に義務のないことを行わせ」ることは強要罪に該当する(刑223条)。
これらのことより
  • 例えどういう事柄であれ、相手を恐れさせよう、という考えで何かを相手に伝えれば、それだけで脅迫罪は成立する
  • 本当に訴える気もないのに、「訴えるぞ」と相手に伝えることは、脅迫にあたる。もし仮に相手が違法なこと(名誉毀損など)をしていたとしても、この行為は相殺されることなどはなく、罪は罪である。
もう1つ重要なことは、脅迫行為を行った場合、後から「あれは冗談だったんだ」という言い訳は一切通用しないという点である。(これも判例があったかと思うが、典拠失念)

以上のことから考えると、国沢氏が行った1行の警告メイルは、当該WEBページ作者の国沢氏への名誉毀損行為の罪状は別として、脅迫罪が成立する可能性が高く、かつ自分が自由に書いている日記という自由な発言の機会を不当に奪おうとする、義務のなき行為を行わせようとするものとも考えられ、強要罪が成立する可能性すらあるのだ。

もし、本当に訴えようとしていたのであれば脅迫ではなくなるが、その解釈は恐らく否定される。

まず国沢氏は
何が権利侵害かについて具体的に示していない。(2chでそのページが紹介されて20分でメイルを出しているのだからそんな時間などないはずだが・・・)次に、「どこが権利侵害か教えてくれ」という返答にもまともに答えていない。これは、問題解決を図る努力をまったく拒絶しているとみなされるべきである。 加えて、訴える準備をした形跡が日記からもまるでうかがえない。よって、国沢氏のメイルは、まさに「脅迫」にあたると言わざるをえないのだ。

では「2ちゃんねるを名誉毀損で石神井署に届けでた」というのはどうなるであろうか?
これも、もし実際に石神井署に届け出ていれば、事実の公表ですむだろうが、実施していなければれっきとした脅迫である。更には国沢氏は「該当スレッドを削除しなければ準備は先に進む」と言っているが、その「届けでた」2000年10月から3年近くも経ち、管理者であるひろゆき氏が2ちゃんねるに関するいくつもの名誉毀損裁判を受けているが、国沢氏はそれ以上のことをしていない。それゆえに、これは個人の名誉回復措置をとるための方法として、自身も言論で対抗するよりも相手の意見の封殺を意図したもの、としか考えられないのである。

加えてもう1つ。2ちゃんねるには何度か「おまえらまだやってるのか!準備を進めるぞ。首を洗って待ってろ」というような脅しが書きこまれているが、これについても、もし国沢氏または彼の周囲が書いていたのであれば、これまた脅迫である。近年、2ちゃんねるはIPの記録も行っている。もし国沢氏またはその近くの立場の方がやっているのだとしたら、あまりに迂闊すぎる。その可能性は極めて低いかとは思うが。

もう一度書いておくが
、「訴えるぞ」という言葉を発した以上、本当に訴えない限りは脅迫にあたる可能性が高いのだ。「ジョークだよ」という言い訳は通用しない。おまけに状況証拠は有り余っているため、国沢氏にとってはこの件に関しては圧倒的に不利であろう。
●黄昏野郎バスターの正当性

これも焦点となるところであるが、国沢氏が自身の掲示板でとった、「黄昏野郎バスター」によるアクセス拒否についてはどうなるのであろうか。

これに関しては、東京ニフティ訴訟が非常に参考になるので、この裁判のきっけけとなった事件から紹介したい。

告訴者Cは、文筆業も行っている人物であるが、ニフティのあるフォーラムの会議室において特権を与えられた。そこでは、自分と異なる意見があれば話題をそらしたり、意見者を排除したりした。そして始末に負えなくなると会議室を閉鎖、また新たに別の会議室を作って同じ行為をしたりと、自分とそのイエスマンだけが心地好い空間を作りあげた。
そんな中、Bという人物がCに異見を述べ、CはBを苦々しく思った。後日、Cがチャットを行っていたら、Bがそこに入ってこようとしたので、Cは他の参加者(Cのシンパ)と共謀してBをチャットに参加させなくしたのだ(スクランブル事件という)。

しばらくしてCはフォーラムから去っていったのだが、BはCの会議室運営に対する意見を延々とそのフォーラムに書き続けた。それが「名誉毀損だ」として、CがBとフォーラム管理者、そしてニフティを訴えたのである。


この裁判の判例で一番注目されたのは、
「プロバイダや管理者にはネットの常時監視義務はない」という見解であり、その点だけ着目されがちだが、このケースはkunisawa.netでの騒動と非常に似通っているので、黄昏野郎バスターの正当性を考える上では、異論を排除するスクランブル事件について裁判所がどう判断したか、に着目すべきであろう。

さて、一審判決、二審判決においてスクランブル事件に関しては「違法ではない」という結論が出ている。しかし、判決をよく読めば、異論排除については「誉められたことではない」という意味のことを述べているのだ。
1 争点2(一)(スクランブル事件が、被告丁の名誉を毀損し、不法行為となるか否か。)について  

(一) 原告が、被告丁のリアルタイム会議室参加の際、スクランブル機能を用いて事実上被告丁を排除したことは右一2(三)において認定したとおりである。
  
(二) いわゆる村八分は、
継続して特定人をある集団や生活共同体等から排除するものであって、排除された者の社会生活に深刻な悪影響を与えるものである。これに対し、本件におけるスクランブル事件は、原告が、ニフティサーブにおいて、会員が用いることを許されているスクランブル機能を用い(原告本人、弁論の全趣旨)、ただ一度、一時的にRT会議室から離脱したにとどまるものであり、原告のとった右措置についてのRT常駐要員としての相当性の問題は別としても、被告丁の社会生活に重大な影響を与えたものということはできないから、法的に、いわゆる村八分と同視するほどの違法性が存すると認めることはできない。

(NIfty裁判 第一審判決より引用) 
 
(2) 名誉毀損
ア  本件各発言のうち,(中略)の部分及び同旨の発言内容部分は,被控訴人が****及び****の犯罪を犯したとする内容の発言で,被控訴人の社会的評価を低下させる内容であり,名誉毀損に当たる。

イ  控訴人丁は,これらの発言が言論の場においては許容されるかのように主張する。
しかしながら,対立する意見の容易に予想されるフェミニズムという思想を扱うフォーラムにおいても,おのずから,議論の節度は必要である。

上記の各発言は,控訴人丁の議論の中では,
その主張を裏付ける意味をおよそ有せず,また,被控訴人の主張を反駁するためにされているとも解せられず,被控訴人の公表した事実が犯罪に当たることを言葉汚く罵っているに過ぎないのであり,言論の名においてこのような発言が許容されることはない。フォーラムにおいては,批判や非難の対象となった者が反論することは容易であるが,言葉汚く罵られることに対しては,反論する価値も認め難く,反論が可能であるからといって,罵倒することが言論として許容されることになるものでもない。

尤も,本件においては,先に認定したとおり,被控訴人において,意見の対立の予想される思想を扱うフォーラムに身を置きながら,異見を排除したり,スクランブル事件の際のように控訴人丁を排除したりするなど,反対意見に対する寛容の必要性についての基本的な理解に欠けることを窺わせる行動が見られるが,このことを考慮しても,
議論に臨むについて,節度を超えて他人を貶め,又は他人の名誉を傷つけることが許されるものではなく,控訴人丁のこの点に関する主張は,採用することができない。

ウ 
控訴人丁のその余の各発言は,フェミニズムについて自己と異なる意見を排除し,課金免除の特典を受けながら本件フォーラムにおける発言をしなくなったとして,被控訴人を批判又は非難するもの,「フェミニスト・フォーラム」について異なる意見や反論を排除し,私物化しているとして,その運営方法について被控訴人を批判,非難又は椰楡するもの,控訴人丁の個人的情報に関する被控訴人の発言についての非難を内容とするもので,一部には,表現が激烈で相当性に疑問を抱かせるものもないではないが,被控訴人の社会的評価を低下させる事実の公表を含むものではなく,名誉毀損に当たるものではない。

(Nifty裁判 第二審判決 より引用)
一審ではスクランブル事件については「(管理人が特定人物を締め出すことが適当だったかどうかは置いておくとして)、一事的な締めだし措置であるから権利侵害を受けているわけではない」としたが、二審ではもう少し踏み行って、反対意見に対する寛容の必要性についての基本的な理解に欠けるという見解が示されている。

この判例を基に考察していくことにすると、まず国沢氏の掲示板が「論争が予期されるかどうか」なのだが、これは掲示板自体だけではなく、その背景についても考慮する必要があるのは言うまでもない。
国沢氏は自動車および交通行政等に対する批評を業とする人物であり、一般私人よりも批判を受けやすい立場にある、と言ってもよいだろう。 そのような人物が開設している掲示板であるから、その場で異論が出てくることは、当然予見できてしかるべき、と思われる。

2000年1月 5日
原稿書き。170字詰めで36枚。加藤さん、終わりましたよ。カウンター4万件目はまたしても村下サンというヒト。掲示板もそうなんだけれど、ワタシがHPを始めたのは 「少しでも困ったヒトに役に立ちたい」ため。
ヒョウンカのヒョウロンをされてもね〜。だってワタシもヒョウロンカなんだから。困ったことあったら、ドンドン相談下さい。ジャーナリストは泣き寝入りしてる人を見るのがイチバン嫌いです。

(web archive内のkunisawa.netのアーカイブより引用)

国沢氏はこのようにWEBの開設初期より自身が評論されることには否定的であったが、これは完全に誤りであって、先の牧野弁護士が言うように、「発言(評論)する自由はすなわち発言(評論)される自由」でもある。そしてその自由は国民全てに与えられた権利であって、社会的地位に左右されるものではない。
もし仮に国沢氏の主張が正しいとすれば、論客の評論中に名誉毀損発言があっても被毀損者は対抗弁論が許されないことになってしまう。そのようなことが容認されるはずもなく、これだけでも国沢氏のこの考えが間違いであることが分かるだろう。

閑話休題。また次の見解でも、「掲示板の運営方法についての批判で一部激烈な表現があっても、社会的評価を低下させるものでなければ名誉毀損ではない」とある。これは議論が白熱し、過激な発言になっても、話の流れや状況を考慮すれば、激烈な表現でも批判を主目的とするものであれば、ある程度は許容されるということである。

実際、当該裁判でも、
「許容度を越えた誹謗」についてのみ有罪となったわけである。 その許容度ラインは裁判官の判断に委ねるしかないが、上で考察したように「必然性のない表現で相手を批判しているか否か」が判断基準となる。

例えば
「<例>ああ、他人の意見は聞かないわけね。さすが半島人だ」というのはかなりの確率で名誉毀損となるであろう。カテゴライズしようとする分野に対する明らかな侮蔑が含まれる上、批評の本論とまったく関係ないからだ。 (じつは上のニフティ裁判でも、Bが韓国籍と知ったCが「ブラクは恐いねぇ」「さすが朝鮮人は恐いね」とフォーラムに書きこみBの名誉を毀損した、とBは反訴したのだが、証拠不十分でこの訴えは退けられている。確実な証拠があれば、当然ながら名誉毀損となっていたはずである)

これに対し、
「他人の意見を受け入れないとは、あなたの神経を疑う」というのは、表現は激烈ではあるが、議論の流れを鑑みた場合によっては、名誉毀損とまではならない可能性もある。

以上のことを考慮すれば、「特定人物の締め出し措置」については、「社会生活に重大な影響を与えない限りは違法性はない」という見解が出ているため、やはり
黄昏野郎バスターによる締め出し行為自体の違法性は無いという結論になる。だが、違法行為とまではいえないとはいえ、その締め出し行為自体は誉められたものではないという見解となるであろう。


● 黄昏野郎バスターの落とし穴

しかし、「違法性はない」とされた黄昏野郎バスターによる特定人物の締め出し行為にも重大な落し穴が存在する。

もし仮に、Sという人物が、国沢氏または常連に対する反論を書き、常連が反論し、激論となり、国沢氏サイドが劣勢になったとする。そこで黄昏野郎バスターを発動し、S氏をアクセス禁止とした。

この後、もしその討論を行っていた常連が「あんなバカはほっといて楽しい話題をしましょう」と発言した場合、
S氏が国沢氏側を名誉毀損で訴えたら、国沢氏側は敗訴する可能性が非常に高いのである。

これが何故か読者の方にはもうお分かりと思うが、
「相手の有効な反論の場を奪い、一方的に相手を批判」しているからなのだ。実際、これまでも批判者が追い出された後に、「あんな黄昏野郎どもは〜」「友達がいない〜」等の激烈な批判は数多く行われてきている。 このような行為は実にまずいのである。

ただ、名誉毀損が成立するには、その批判を受ける人物が「特定される必要」があるので、国沢氏の掲示板へ書きこむ際のハンドルが「名無しさん」では、被害者が特定はされないため、名誉毀損は成立しないと思われるのだが。

国沢氏およびサポートチームは、自分達の領域を守るために、彼等への批判者に対する非難に非常に寛容な傾向がある。しかしそれは自らの首を締める可能性が高い。

自分達への擁護のため相手を批判する者に対しても、必要性を欠いた批判・誹謗の表現はいましめるべきなのである。


>裁判をすれば