4−2: クリソツ  ―ザイテック騒動― (2000年10月)

[序文]

自分、または相手にとってネガティブなことを伝えるに勇気が必要なことは論ずるまでもない。

「日本軍の小失敗の研究」の続編である「続・日本軍の小失敗の研究」には、「真実を告げる勇気の欠如」と題された節がある。ここでは、マレー沖海戦にて新鋭戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスを撃沈されたチャーチルの対応について触れており、彼はこの報を受けた後、議会で正直に話し、かつ「この損失を過小評価してはならない」と述べた。国民にもラジオ放送で真実を述べたそうである。

対する日本軍はどうであったかといえば、ミッドウェー海戦(主力空母4隻他を失う大敗)について、国民には戦果として敵空母2隻撃沈、敵機120機撃墜、地上施設の破壊。自軍の損害は空母1隻、巡洋艦1隻大破と航空機35機未帰還、と報じたというのだから呆れたものである。また、同時期に実施された作戦を「アリューシャン方面の大戦果はミッドウェー方面に敵を牽制したことにより得られた」と報じたというのだから、これはごまかし以外のなにものでもない。

その他の国でも、アメリカもほぼ真実を忠実に伝え、ドイツも戦争後半はやや虚偽がみられるが、意図的な隠蔽はなかったらしい。しかしイタリアは戦争全体を通じて日本と同じく嘘、被害の過小報告が多く、戦後もその傾向があるようだ。 作者の三野氏は、この節を、
「自国の戦闘力に自信のある軍隊を有する国家は、真実を明らかにする勇気を持っていると判断できる。また、それによって国民の強い信頼をかち得ていると言えるのではあるまいか」(続・日本軍の小失敗の研究より引用)と結んでいる。

この言葉に「うーむ」と考えさせられる方も多いのではないだろうか。


[経緯]

この事件は、1−1の「男に飢えた島」事件と双璧をなす、kunisawa.net初期の重大なトラブルである。まずは分かっている事件のあらましから見ていこう。

● うりふたつのエンジン

国沢氏は2000年秋、とあるある雑誌でフォード フォーカスの試乗記事を書いた。その中には、少し問題がある表現が含まれていたのだ。

排気量は1600〜2000までラインナップするが、日本仕様はフォーカスに搭載されデビューした新しい1600のみ。興味深いことに「ザイテック」と呼ばれるこのユニット、ヤマハの設計とか。同じくヤマハ設計のトヨタZZ型とウリふたつといってもよかろう(フォードはあまりにもくりそつなので相当怒っているとか)。

( 特選外車情報 Froad 9月号 221ページ 国沢光宏のFun to drive フォードフォーカスの評論より引用)
氏は「ザイテック」と書いているが、英語表記は「Zetec」であり、「ゼテック」「ジーテック」等と読む方が正しいのではないか、と思われるが、ここでは国沢氏の表記を尊重して「ザイテック」とする。

● 国沢さん、それはないだろう

この雑誌の記事は、国沢氏は自身のページにも掲載していた。そしてこの記事に対し、ヤマハ発動機の社員の方(メイルアドレス、proxyアドレスもヤマハのものであった)が国沢氏の掲示板に疑問および質問を書き込んだ。 (
この時の書き込み内容をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください) その内容は以下のようなものであった。
  • ZZエンジンとZetecエンジンは見た目はよく似ているが、構造的にはまったく異なる代物である。開発においてパクるような箇所は存在しない。 (実際には技術用語を用いて違いを細かく書いていた。筆者のおぼろげな記憶では、エンジンブロックの構造が両者では異なり、一方がオープンデッキ、他方はクローズドデッキである、という指摘があったと思うのだが…。)
  • ヤマハ社内のエンジン部門は、エンジン単位で独立したチーム制をとっている。異なる会社から委託された仕事に関して、メンバの技術交流などは一切ないはずだ。そのようなことをしたらヤマハの信用に関るので、ありえない。
そして最後に、
どちらからその情報を得られたか解りませんが、具体的にどの箇所が似ていると指摘されているのでしょうか?今後の勉強の為に御教授願えませんか?

と絞めくくっていた。確かにこの2つのエンジン、横置き型の4気筒FF用のエンジンで後方排気、プラスティックインテークマニホールドなど共通している点が多く、見た目が似たようになっても不思議ではない。 だが見た目がクリソツでも構造が違えば別物である。
(変な例えをすれば、トカゲとイモリのようなものであろうか)

ヤマハ社員の書き込みは質問の形式をとってはいるのだが、軽いクレームであると思った方がいいだろう。

● これでも不満ならまた反論しろ

これに対する国沢氏の回答はなんとも奇妙なものであった。

隠さなければならない事実がありますので直接メールしておきました。
それでも反論あるようならもう一度書き込んでいただいてけっこうです。
そして、この書き込みと同時にヤマハ社員の書き込みが掲示板から消えてしまったのだ。
これは国沢氏が消したものか、ヤマハ社員が自発的に取り下げたものかは不明である。 この不透明な出来事に一時2ちゃんねるは騒然となった。

その後、上の国沢氏の回答まで消え、更に国沢氏のページ中のフォーカスの記事が下のように書き換えられることとなったのだ。
排気量は1600〜2000ccまでラインナップするが、日本仕様はフォーカスに搭載されデビューした新しい1600ccのみ。興味深いことに『ザイテック』と呼ばれるこのユニット、ヤマハが関係しているというウワサ。同じくヤマハ設計のトヨタ2ZZ型と似ているブブン多い(フォードはクレーム付けたとか)。

kunisawa.netのフォード・フォーカスのページより引用)
  • ヤマハの設計とか → ヤマハが関係しているというウワサ
  • ウリふたつと言って良かろう → 似ているブブン多い
  • フォードはあまりにもくりそつなので相当怒っているとか → フォードはクレームつけたとか
ご覧のようにかなりトーンダウンさせたような表現となった。
これが、第三者が知ることができた事象の全てである。裏で一体何が起こっていたのかは、まったく知る術はない。


● 「フォードが怒っている」という意味

さて、事実がどうあれ、国沢氏が最初に記事に書いたような表現は極めて深刻な事態が生じているかもしれない、という疑いを読者に抱かせる。例を挙げると

  1. ヤマハはトヨタとフォードからエンジン開発の依頼を受け、双方を1つの設計で共用し開発費を浮かせたが、両者からは各1基の開発費用を受け取った。それに気がついたフォードが開発費を負けろと怒っている
  2. Zetecエンジンの特許がZZエンジンに使われ、それで似たようなものになった。そこでフォードは特許侵害で怒っている


などである。もし読者諸氏が社会人であれば、この程度の想像は容易にできるはずだ。 少なくとも、ヤマハについては「不誠実な会社だなぁ」というイメージが残るだろう

高校生以下や、よほど世間に無知な方なら「ふう〜ん」程度で読み飛ばし、かつ国沢氏が意図したかもしれない、ZetecはZZと兄弟のようなものだから信頼性バッチリ、という印象を受けるかもしれないが、
社会人なら「ある会社が怒っている」ことが事実なら、次にどういう事態に発展する可能性があるかというのは誰でも知っていることである。

(国沢氏は会社組織に属したことが無いばかりに、企業間の紛争についての意識がまるでなく、非常に軽い気持ちで「怒っている」などと書いてしまったのではあるまいか?)

しかも、もし本当にフォードが怒って訴訟が起きるかもしれないとしたら、まさにスクープである。 だが、この件について訴訟が起こったという報道は現在(2003年)に至るまで、どこでも報じられていない。

● 追求

さらにその後、この話題について国沢氏はかたくなに拒否し、触れられたくないといった態度をとっている。これはその後、901氏との討論があった際のログの一部等である。

私は原稿の通りだと解釈している

(901氏との討論の少し前、自身の掲示板でZetecの件について質問を受けての回答)
3つめの質問です お願いします 投稿者: 901 投稿日:2000/11/23(Thu)01:29:36 引用

(略)
2.「ザイテック」エンジンをヤマハ発動機が模倣したと言う記事は
何を根拠に書き、 その後どのように訂正したのか。
3.ザイテック問題で公開質問した技術者には
なんと答えたのか
4.上記3点について公開の場での批判に答えなかったことは文筆業者としてフェアな態度だと考えるのか。またその理由は。

Re: 3つめの質問です お願いします 投稿者:国沢光宏 投稿日:2000/11/23(Thu)01:38:46

(略)
2、これはマスコミの基本理念である情報源の秘匿にあたります。
もし疑問があればメーカーに聞いてみたらいかがか? 相手にされないと思いますが。
3、メールしあって、完全に解決しています。
4、ちゃんとしたルートでの質問なら当然答えます。どこの誰だかワカランやつに教えるつもりはありません

長文ですみません 投稿者: 901 投稿日:2000/11/23(Thu)02:02:03 引用

(略)
>2、これはマスコミの基本理念である情報源の秘匿にあたります。もし疑問があればメーカーに聞いてみたらいかがか? 相手にされないと思いますが。

では、そもそも何故隠匿事項を記事にしたのでしょうか?

>3、メールしあって、完全に解決しています。

相手が公開を望んでいる(掲示板に書いている)のに何故それをしなかったのですか?

>4、ちゃんとしたルートでの質問なら当然答えます。どこの誰だかワカランやつに教えるつもりはありません。

普通に観ているいわゆる「ROM」に対してもそれが誠実だと確信持って言えますよね(確認)

(略)

Re: 長文ですみません 投稿者:国沢光宏 投稿日:2000/11/23(Thu)02:08:00

(略)
2、これを質問したヒトはマスコミの常識を知りません。法廷に持ち込まれない限り情報源は秘匿です。
3、今は全く望んでません。
4、全然思いません。
ここは税金で運営されているサイトでありませんから。

これで最後です(略) 投稿者: 901 投稿日:2000/11/23(Thu)02:05:01 引用

私の質問に回答が来たようですが、私もマスコミの端くれとして全く理解も納得も出来ません。
まず情報源の秘匿と言うのは「どこの誰が提供した情報か」を隠さなければならないと言うことで、どのような情報を得たのかを隠すことは必要ないし、またしてはならない筈です。記事の信用性に関わるからです。
また、誤報によって相手に何らかの被害を及ぼした場合は訂正を記事同様公開の場に示して誤報を撤回すると共に公開の場において謝罪するのがマスコミの人間として最低限の行為です。個別折衝は意味をなしません。
4つ目の質問の答えも、全く答えになっていません。捜査上の秘密になど該当しないのはちょっと警察実務を知っているものにならすぐに判ります。
これまでの回答を見る限り、901氏が堂々と取材を掛けているのに対し、国沢氏は大変不誠実で横柄な対応をしているとしか思えません。このような態度が、いらざる反感を招くのだと思うんですがいかがでしょうかね

Re: これで最後です (略) 投稿者:国沢光宏 投稿日:2000/11/23(Thu)02:09:08

やっぱりこの方はド素人です。マスコミ関連の方では完全にありません。

(無題) 投稿者:J 投稿日:2000/11/24(Fri)01:10:01 引用

正直なところ、質問と回答がかみ合っていないように感じます。一部、下にあるの質問から引用いたします。
>「ザイテック」エンジンをヤマハ発動機が模倣した
先生の原文では’くりそつ’という表現のようですが
現在の先生の意見としても当時の記事の通りなのでしょうか。

Re: (無題) 投稿者:国沢光宏 投稿日:2000/11/24(Fri)01:15:42

 ザイテック(先日イギリスから来たフォードの技術者の発音で言えばジィテック)とトヨタ2ZZについては
主張を変えるつもりはありません。それにしてもどうしてなぜその件だけにこだわるのでしょうか? もう半年近くそれだけ。ナントカのひとつ覚えみたいです。それしかネタがないのですか?

oyakata.netより引用)

筆者には「も〜う、やめてぇ〜」と国沢氏の心から横山弁護士の声が聞こえてくるようだ(笑)。 特に「そんなに疑問に思うなら自分で聞いてみろ」のくだりは、ご自身がマスコミの一員とは思えない台詞である。つまり、ここまで書かなくてはならないほど触れられたくないとみてよいだろう。


[考察]

さて、この一件に関しては極めて不透明な部分が多く、研究するにも確実な資料がない。 だが、確実に言えることは、

  • 「誤解を生むような表現は避ける」
  • 「秘密主義で片付けない」

という教訓だけは残るのではないか。
「誤解を生む表現は避ける」については他の節で解説しているので、ここでは2つ目についてのみ述べる。

もし仮に国沢氏自身に落ち度があった場合でも、その場で謝罪すれば、その場だけでほぼ終わるのだ。絶対に間違っていないのであれば、陰でコソコソせず堂々としていればよいのである。
真実を伝えず、陰でコソコソとしてしまうから、あらぬ疑いをかけられ、延々と話題にされ続けるのだ。 加えて、過ちは「したこと」よりも、それを「誤魔化す」方がはるかに悪い。これは道徳の基本である。また一旦ごまかしてしまっては、後はひたすら弁解を続けてしまうことになり、自分自身を騙してしまうまでに発展してしまうことすらある。

工業製品には不良品がつきもの、プログラムにはバグがつきもの、雑誌には誤記がつきものである。謝って訂正することは恥でも何でもないと筆者は考える。三菱自動車が叩かれたのも、「クレームが多い」ことではなく、「クレームにすべき事象を隠した」ためなのだから。

国沢氏は自身が関わる業界で、一体何を学んだのであろうか。
先人も、このような言葉を残している。

過ちて改めざる、これを過ちという
汝、過ちを悔い改むるに憚ること無かれ…


実はこの話には後日談がある。以下は断片的に2ちゃんねるに書きこまれた内容をまとめたものである。
まあ2ちゃんねるのことであるから、大嘘であり全くの作り話の可能性が極めて高いのだが、あまりに辻褄が合っているので敢えて掲載しておこう。

信じるかどうかは読者諸氏に任せるが、もし万が一真実だとしたら、国沢氏は確実にWEBの歴史に名を残す人物となるだろう(恐らく彼の望まない形で、ではあるが…)。
国沢氏はY社社員の質問を見て、「まずい!」と思い、まずはY社とT社からkunisawa.netの掲示板へのアクセスができないようにした(初の黄昏野郎である)。
そしてその後、上の「まだ反論があれば再度書け」という書き込みをし、おまけにY社の方の発言も削除した。

掲示板へ書き込めないようにしてから「反論あればまたどうぞ」とは何とも姑息である。一説によると、国沢氏またはサポートチームは、裏からY社へ手を回して上司に密告し、Y社の方は「会社のパソコンを私用に使うな!」とのお叱りを受けたらしい。

(筆者注:そういえば過去ログにも『この件であまり騒ぐとY社社員の方が困るのでほどほどにしてくれ』という書き込みもあった)

T社の某所では、kunisawa.netが見えなくなって、この時ちょっとした騒動となった。

そして「これは正式に抗議すべきだろう」と立ちあがったT社は、正式な書簡にて国沢氏へクレームをつけた。慌てふためいた国沢氏は急遽T社に出向き、知人に泣きつくなど懸命にT社の怒りを納めようと奔走し、謝罪文を出した。それは、
  • あれは、あくまで見た目の話をしたのである
  • 広報関係の筋から聞いたので、メカニカル面では不備があったのは仕方ない
  • あのような書き方をすることでZetecの技術力をアピールできる
    (つまり、ZZエンジンはすばらしいエンジンと言いたいのだろう)
などという終始弁明に徹したみっともない文面であった。(実はY社の方にも似たような弁明のメイルをしていたらしい)
そしてこの謝罪文のコピーは、見せしめとして長い間T社某所の掲示板に貼られていた。Y社の外注先やT社内ではしばらくこの話題でもちきりであった。

その後、このような騒動を起こしたということでT社、Y社からの、2ちゃんねるとkunisawa.netへのアクセスの監視は厳しくなったということである。

(文中、特に表記なきものは過去ログ保管所@国沢親方 より引用)

第4章TOPへ
(1−0版 2002.08.23発行)
(2-0版 2003.03.22)
  (2-1版 2003.09.30 序文追加)