● KAZ騒動のその後

本件を記載後に、少し面白い記事を見つけたので、それをここに記載しておく。まずは国沢氏の日記である。
2003年5月25日

昨日のイベントで『東京R&D』社長の小野昌朗兄と御一緒させて頂いた。小野兄はワタシがベストカーガイド編集部に在籍している時、新人にも関わらずいろいろ教えて頂いた方で、今はGT 選手権に参戦している『VIMAC』や、
電気スクーターなど開発している東京R&Dの代表である。

「今日は何でいらっしゃったのですか?」とお聞きしたら「ヴィーマックです」。一瞬理解出来ず。もしかしてVIMAC180? 地下駐車場に行くと、おお! マサしくVIMAC180である! エンジンの音を聞かせて頂けますか? と聞いたら「じゃ乗りますか?」。 ???<!!! 音を聞かせて貰うだけで幸せなの に! 至福の時を過ごさせて頂きました。簡単に言えば「凝った作りのロータス・エリーゼ」。サーキットの狼世代にとっちゃトロけそうなサイズでしょう。エンジンがエリーゼに搭載されるローバー製の1,8リッタ ーより5千倍くらい気持ちよい先代インテグラSiR用180馬力なのも素敵。21世紀のロータス・ヨーロッパか。欲しくなりそうな自分が怖い。夏くらいに『Ver2』を発表するそうです。

(略)

(kunisawa.netより引用)
…ん? と多くの方は思われたことだろう。東京R&Dは、IZAの車体の製作を行った会社である。清水教授と東京R&Dは何らかの関係があるのでは?と思われた方も多いだろう。

国沢氏は、小野社長を「恩人」と呼んでいるのだが、その小野氏は、
国沢氏がBCG編集部員であった頃から清水教授と親交が厚かったらしいのである。以下はその経緯を綴った記事である

伝説のF1設計者、電気スクーターに挑む
東京アールアンドデー社長 小野昌朗さん(55歳)


(略)
そして今、もうひとつ手がけるプロジェクトが、電気スクーターだ。効率のよい電気モーターやバッテリーを開発し、世界の自動車メーカーに供給する体制を整えるととも に、自社ブランドでも近く販売する予定だ。

(略)

――騒音をまき散らし、ガソリンをひたすら消費するレーシングカーを作ってきた人が電気スクーターに傾注するのは、「罪滅ぼし」のように見えるのですが。

小野 電気自動車を研究しているのは、私に限らずみな車好きで、レースカーも大好きという人たちです。地球環境の問題を考えたときに、このまま車が変わらず、 世の中に存在できるとは思えないと、みな考えてます。そうなったら、寂しいじゃない ですか。だったら、何かできることはないか。電気自動車は、ひとつの可能性だと思 います。

(略)

――電気自動車を普及させるには、国の政策が必要ですか。

小野 立ち上がりの時期は、どうしてもコストが高くなるので、スクーターでも四輪車と同じように、ガソリン車との差額の半分程度の補助金が受けられるなど、消費者の 購買意欲が高まるような公的な支援策がほしいですね。また、公共的な駐車場に、 コンセントがあると、充電しやすい。

(略)

◆ 転機 ◆

ポルシェ博士に見た電気自動車の明日

電気スクーターを開発するきっかけは、いま世界最高速の電気自動車「KAZ」を作った慶応大の清水浩教授との出会いだった。

84年5月、環境庁公害研究所(現環境研究所)の研究員だった清水さんが訪ねてきた。小野さんのレースカー技術の論文を読み、それを電気自動車に応用できないかと考えた、という。

当時は、大容量になってしまう電池が改良されない限り、電気自動車の実用 化は無理というのが常識だった。しかし、重量を軽くし、空気やタイヤの抵抗を少なくすればいいはず。こんな清水さんの話に、小野さんはひらめいた。

「それなら、レースカー作りで考えてきた技術や工夫と同じではないか。電気自動車は、ポルシェ博士も手がけたものだ」

尊敬するフェルディナント・ポルシェ博士(ポルシェの創設者)が、車輪に付け たモーターを電気で回すハイブリッド車を作っていたことを思い出した。

初対面のふたりは意気投合した。そして、清水さんの理論と小野さんの技術の両輪が動き始める。

ちょうど、自動車メーカーがモデル更新の期間を延ばした結果、メーカーから の開発依頼が大幅に減っていた。「技術の柱をふやさないと生き残れないと痛感していた。それで、すぐに電気モーターの開発から取り組んだ」

翌85年の東京モーターショーに電気モーター付きオートバイを、87年には電気スクーターを展示した。これに注目した電力会社と共同で、スクーターやスポーツカー(筆者注:IZAのことと思われる)を開発していく。

(略)

Be on Suturday 2002年10月12日号より引用
…やはり、批評をするには、対象やその背景もよく調べなくてはならない、と強く実感させられるものである。
● Hカー プロジェクト

ところで、KAZのページはその後kaz-style.comとなったが、KAZプロジェクトは2002年秋をもって終了した。そして新たに発足したのがHカープロジェクトである。その経緯が慶應義塾大学藤沢キャンパスのヘッドラインに掲載されているので、引用する。
Q:Hカーとは、どのような車なのでしょうか。

清水:私の研究室では、これまで地球環境問題の抜本的な解決策の一つとして、電気自動車に関する研究・開発を行なってきました。近年では「KAZ(注)」という電気自動車の開発に取り組んできま した。そして昨年の秋に、このKAZの開発プロジェクトが終了し、その後継機であるHカーの開発プロ ジェクトが始まりました。

HカーはKAZの基本概念・技術ともに継承した電気自動車です。例えば、インホイールモーターと いって、モーターを全て8つの車輪に挿入するという技術を取りいれています。このため従来の4人乗りの車以上に平らで低い床面、広い車室を実現できました。
そしてKAZと大きく異なるのは、より実用性を重視した点にあります。KAZは車体が約6.7mと大きく、必ずしも実用的ではありませんでした。よって、実際に一般利用するという点までは至らなかったのですが、このHカーは車体を約4.8mと街中を走っている乗用車と同様のサイズにします。また自動的に幅寄せ、車庫入れ、Uターンを行なうことができます。最終的に少量生産に結びつけることも念頭に置いています。

Hカーの開発は、環境にやさしい理想的な乗りもの社会を創るための重要なステップとなるでしょ う。

(略)

Q:この秋に開催される東京モーターショーに出展されると聞いたのですが。

清水:はい。このHカーの開発プロジェクトには約30社の民間企業から協力を頂いています。そして、開発後はHカーを大学発のベンチャー企業の1商品として、如何にして社会に普及させていくか考えています。
また、Hカーは今年中に車そのものの開発を終えて、2004年の3月にイタリアのナルドにて世界最高速度に挑戦します。
そのような計画がある中で、今回の東京モーターショーへの出展はHカーを社会へ広く認知させる良い機会になると思ってい ます。
そして2003年9月25日、プレス発表が行われた。asahi.comの記事を引用する。
慶応ブランドの電気自動車公開 研究室が試作車開発

慶応大環境情報学部・清水浩教授の研究室が電気8輪自動車の試作品を開発し、その5分の1モデルを25日公開した。発電機メーカーのエネサーブなど国内38社が協賛する産学連携プロジェクトで、実寸大の試作車は10月末から始まる東京モーターショーにも展示される。

車(全長5.1メートル)は「Eliica(エリーカ)」と名付けられた。効率が高いリチウムイオン電池を使用。これまで多く使われた鉛電池より小さいので、斬新なデザインが可能という。車輪のそれぞ れの中にモーターが入った8輪駆動で、最高時速の目標は400キロ。開発には研究室の学生ら約50人が携わった。

次世代の車では燃料に水素を使う燃料電池車が有力視されているが、清水教授は「燃料電池車の普及には時間がかかる。リチウム電池が量産化できれば、電気自動車の利用がもっと広がる」と力を込める。

(09/25)
この後、エリーカのページも開設された。ここを見れば、これまでの清水教授の研究成果が非常によく分かるものとなっている。1983年のA-CARに始まり、1990年に新日本製鉄・東京R&Dと共同で開発したNAV(最高速度120km/h、1回の充電での走行250km)、そしてIZAへと続いている。

まあこれから国沢氏がこのエリーカをどのように批評するかは分からないが、せめてここに書かれたことくらいは把握した上で批評をしていただきたいものである。

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